2026.07.07

2026.07.02

ゆるキャン△×自治体に学ぶ地方創生。小さな町がふるさと納税と観光を伸ばす方法

ひとつの県が、アニメとのコラボで約5億円を稼ぎました。

静岡県が令和6年度に実施したアニメ『ゆるキャン△』とのスタンプラリーは、県内への経済波及効果が4億9,810万円にのぼったと推計されています。参加者は県内外から8,330人。そのうち約半数は、県外からの来訪者でした。

この数字を見た自治体の担当者の多くは、こう思うはずです。「すごい。でも、それは静岡県だからできたことだ」と。

人口が少ない。知名度もない。予算は毎年削られている。そんな自分の町で同じことができるとは思えず、成功事例の記事を読むたびに、最初の一歩を踏み出せないまま画面を閉じる。その感覚は、あなただけのものではありません。

けれど、ゆるキャン△と自治体のコラボをひとつずつ分解すると、見えてくるものがあります。地方創生でアニメIPを使う方法には観光誘致とふるさと納税という2つの稼ぎ方があり、どちらも巨大な予算ではなく町の身近な資源から始められる、ということです。

この記事でわかるのは、次の3つです。アニメコラボで地方創生を進める2つの型(観光誘致で稼ぐ/ふるさと納税で稼ぐ)。それぞれの代表事例が実際にどう動いたのか。そして、あなたの町ならどちらの型から始めればいいのか。

静岡県の約5億円は結果です。その結果を生んだのは、稼ぎ方の選び方と最初の一歩の踏み出し方でした。

ゆるキャン△×地方自治体の稼ぎ方は2つに分かれる

ゆるキャン△と自治体のコラボは、目的で2つの型に整理できます。聖地巡礼で人を呼び込み観光消費を増やす観光誘致型と、劇中に登場する地元名物をコラボ返礼品にしてふるさと納税の寄附を集めるふるさと納税型です。どちらも数億円規模の予算を前提とせず、町に元々ある資源から着手できます。

ゆるキャン△が聖地巡礼の定番になった理由

『ゆるキャン△』は、山梨県や静岡県を主な舞台に、女子高生たちのキャンプを描いたアニメです。2018年のアニメ化以降、続編や劇場版が続き、2024年にはSEASON3も放送されました。

聖地巡礼を生んでいるのは、この作品が実在の場所をていねいに描くことです。登場人物が訪れる温泉、食べる名物、立ち寄る駅前のベンチ。その多くが実在し、ファンが現地を訪ねる理由になっています。

ここで自治体が見落としがちなのは、この作品が一度きりのブームでは終わっていないことです。

山梨・静岡の自治体や企業は、観光とふるさと納税の両面でコラボを重ねてきました。だからこそ、規模の大小を問わず、聖地ビジネスのお手本になる事例がそろっています。

地域にお金が入る2つの経路

アニメコラボで地域がお金を得る経路は、突き詰めると2つです。来てもらって現地で使ってもらう観光消費と、来てもらわなくても寄附で得るふるさと納税。この2つが、観光誘致型とふるさと納税型に対応します。

ひとつめは観光消費です。スタンプラリーやコラボイベントで聖地巡礼を促し、宿泊・交通・飲食でお金を落としてもらう。静岡県の約5億円は、この経路で生まれました。

もうひとつはふるさと納税です。劇中に登場する名物を返礼品にすれば、現地に来られない遠方のファンも、寄附という形で地域を応援できます。

2つは組み合わせることもできます。ただ、自分の町がどちらから始めるべきかを考えるとき、この区別が出発点になります。

稼ぎ方主な指標向く自治体代表例
観光誘致型来訪を観光消費に変える経済波及効果・来訪者数周遊できる聖地・広域連携がある静岡県スタンプラリー
ふるさと納税型コラボ返礼品で寄附を集める寄附額・返礼品数劇中の名物・組める事業者がある身延町コラボ返礼品

「小さい町には無理」が誤解である理由

多くの担当者が抱える最大の思い込みを、先に解いておきます。成功事例は資源に恵まれた大きな自治体だけのもの、という思い込みです。

このあと詳しく見る山梨県身延町は、人口1万人台の小さな町です。それでも町が単独で巨大プロジェクトを立ち上げたわけではなく、劇中に出てきた老舗一店舗との連携から、ふるさと納税のコラボ返礼品を実現させました。

決め手になったのは、人口でも予算でもありませんでした。どの稼ぎ方を選び、誰と組んだか。その判断でした。

まずは数字で語れる観光誘致型から、中身を見ていきましょう。

参考:『ゆるキャン△』×静岡県 スタンプラリー(令和6年度実施) 県内への経済波及効果 約5億円(4億9,810万円)と推計 - PR Times

地方自治体が観光誘致で稼ぐ型|来訪を観光消費に変える

観光誘致型は、聖地巡礼を促すスタンプラリーやコラボイベントで来訪を増やし、宿泊・交通・飲食の観光消費に変える稼ぎ方です。効果を大きくする鍵は、地元の人の消費ではなく、県外から来た人が落とす「外から入るお金」をどれだけ呼び込めるかにあります。

静岡県スタンプラリーの経済効果は約5億円

ここまでに何度も触れた通り、静岡県の令和6年度ゆるキャン△スタンプラリーは県内全域40カ所に8,330人が参加し、県内への経済波及効果は4億9,810万円と推計されました。実施期間は令和6年10月から令和7年2月です。

この数字は、令和3年度に実施した同様のスタンプラリーの4億1,148万円を上回りました。コラボを一度きりで終わらせず、回を重ねて伸ばした結果でもあります。

参加者の内訳も見ておきます。県内在住者3,891人に対し、県外在住者は4,439人。参加者の半数以上が、県の外からわざわざ訪れていました。アニメの聖地が、県外から人を引き寄せていたのです。

県外客は地元客の1.7倍使う

経済効果の大きさを左右したのは、誰がお金を使ったかでした。参加者1人あたりの平均消費単価は、県内在住者が35,405円、県外在住者が61,765円。県外からの来訪者は、県内の人の1.7倍以上を使っています。

理由は単純です。遠方から来れば宿泊や長距離の交通費がかかります。そして、ここに観光誘致型の本質があります。地元の人が地元で使うお金は、地域の中をめぐるだけです。これに対し、県外から来た人が落とすお金は、地域にとって外から新しく入ってくるお金になります。

産業別では、宿泊業などの対個人サービスに2億1,585万円、運輸・郵便に9,707万円、商業に4,902万円と、幅広い業種にお金が行き渡りました。特定の観光施設だけが潤うのではなく、町の事業者に広く届いたことになります。

観光誘致型が地域経済を潤すと言われるのは、この外からのお金の流入と業種をまたいだ広がりがあるからです。

5億円は委託推計とアプリ記録で裏づけた

担当者にとっては、5億円という数字そのもの以上に、どうやってその数字を出したかが重要です。議会や上層部に施策を説明するとき、根拠のない数字は通りません。

静岡県は、経済波及効果の推計を一般財団法人静岡経済研究所に委託しています。参加者がスタンプラリーで使った金額を、交通費・宿泊費などの費目ごとにアンケート調査し、その結果から波及効果を推計しました。

前提として効いていたのが、参加の記録が取れる仕組みです。スタンプの取得には静岡県公式観光アプリが使われ、総スタンプ取得数は8万9,321個と記録されました。

来場者数を眺めるだけでは、「で、効果はあったのか」という問いに答えられません。誰がどこから来ていくら使ったかを記録できる設計にしておく。これが、施策を続けるための説明責任を支えます。

NEXCOは3県またぎで全国客を呼んだ

観光誘致型は、ひとつの自治体に閉じる必要はありません。県をまたいだ連携や、交通インフラと組み合わせる方法もあります。その例が、高速道路会社の取り組みです。

NEXCO中日本は2019年3月の中部横断道開通に合わせ、ゆるキャン△とコラボしたスタンプラリーを実施しました。この企画も、規模や予算から始まったわけではありません。

中部横断道の建設を進めるなかで、地元関係者の紹介で作品を知った同社工事事務所の担当者が発案したものです。沿線地域が作品の舞台に多く登場し、登場人物が各地の魅力に触れながら旅をするテーマが、高速道路で地域をつなぐ事業と重なる。担当者一人の気づきが、企画の起点になりました。

効果は、沿線の3県にとどまりませんでした。山梨・長野・静岡の3県にまたがるモデル地や周辺観光地、サービスエリアなど計38カ所をチェックポイントに設定し、実施期間中に7,636人が参加しています。

しかも、参加者の7割は山梨・長野・静岡以外から来ており、47都道府県すべてから参加がありました。広域に動線を引けば、全国からファンを呼べる。それを実証した事例です。

来訪を呼べても消費は別の話

ただし、この事例には宿題も残りました。全国からファンは来た。けれど、そのファンが地域でお金を使ったかは別の話だったのです。

NEXCO自身が、集めたファンを地域の消費につなげることを今後の課題として挙げています。来訪者は確かに増えた。だが、来てもらうことと、地域にお金を落としてもらうことは、設計が違う。呼ぶだけでは、賑わいは生まれても税収にはつながりにくい、ということです。

静岡県が効果を出せたのは、来訪を消費に変える設計(測定と周遊の仕組み)まで踏み込んでいたからでした。では、来訪をお金に変えるもう一方の出口はどこにあるのか。それが、来てもらわなくても税収を増やせる、ふるさと納税型です。

参考:『ゆるキャン△』×静岡県 スタンプラリー 県内への経済波及効果 約5億円と推計 - 静岡県(PR TIMES) / 人気アニメ「ゆるキャン△」とコラボした E52中部横断道利活用施策の結果分析と課題(道路行政セミナー 2019.12)

地方自治体がふるさと納税で稼ぐ型|コラボ返礼品で寄附を集める

ふるさと納税型は、アニメの劇中に登場する地元名物をコラボ返礼品にして、寄附を集める稼ぎ方です。観光誘致型と違って距離の制約を受けないため、現地に来られない遠方のファンも寄附という形で地域を応援でき、来訪とは別の経路で税収につなげられます。

身延町|劇中の一場面が返礼品になるまで

身延町のコラボ返礼品は、ひとつのアニメのシーンから生まれました。ゆるキャン△第8話で、各務原なでしこ・大垣千明・犬山あおいが、身延駅前のベンチで出来立ての「みのぶまんじゅう」を食べる場面が描かれます

このシーンをきっかけに、身延町はアニメのモデル地としての魅力を活かした町おこしに乗り出しました。実現したのが、劇中の名シーンに登場する老舗・栄昇堂とのコラボ返礼品です。返礼品は登場人物と、身延町公式キャラクター「みのワン」柄のパッケージ缶入りで、楽天ふるさと納税やふるさとチョイスで展開されています。

ファンは、作品の世界を自宅で味わえます。町から見れば、劇中の一場面が、寄附を呼び込むきっかけになりました。

町・老舗・権利会社の3者で作った

ここで、規模の小さな自治体が見落としがちな点に触れておきます。返礼品は、町が単独で作ったわけではありません。複数のつなぎ役がいました。

これまで作品のライセンス商品を展開してきた武州屋が協力し、その協力のもとで老舗・栄昇堂とのコラボが実現しています。劇中の名物を作る地元の店、作品の権利まわりを扱える事業者、そして町。この3者が結びついて、ひとつの返礼品が生まれました。

できあがった返礼品をふるさと納税のポータルサイト(寄附を受け付けるサイト)に載せる作業も、専門の事業者が担っています。

身延町のケースでは、ふるさと納税の受託自治体112、サイト運営571件の実績を持つ事業者がポータル展開を支援しました

つまり、小さな町に必要だったのは、すべてを自前でやる力ではありませんでした。劇中の名物を持つ一店舗と、権利やポータルをつなげる協力者を見つけること。それが最初の一歩でした。

来た人を寄附に、寄附した人を呼び戻す

ふるさと納税型には、観光誘致型にはない強みがあります。距離の制約を受けないことです。聖地巡礼で現地を訪れられるのは、時間とお金に余裕のある一部のファンだけです。

.返礼品なら、遠方に住んでいて現地に行けないファンも、寄附で地域とつながれます。そして、この2つは1本の動線としてつながります。

さきほどのNEXCOの宿題(来訪は呼べても消費につながらない)を思い出してください。観光で身延町を訪れたファンが、帰宅後にふるさと納税でコラボ返礼品を申し込む。返礼品で作品の世界に触れたファンが、いつか現地を訪ねる。観光は来られる人を、返礼品は来られない人を取り込み、両者が互いを呼び込みます。

来訪を消費につなぐ出口の一つが、この返礼品です。

なお、誠実にお伝えすると、身延町がこのコラボで寄附額をいくら増やしたかは公表されていません。ここで示しているのは寄附を増やした実績ではなく、税収を増やすための入口の作り方です。

印伝コラボなど身延町以外に広がる返礼品

ゆるキャン△の返礼品コラボは、身延町だけではありません。山梨県では、伝統工芸の甲州印伝(鹿革に漆で模様をつけた工芸品)と作品をコラボさせた小銭入れなど、地域の特産品とIPを掛け合わせた返礼品が、複数の自治体・事業者から登場しています。

ここからわかるのは、コラボ返礼品の素材は劇中に登場した名物に限らないことです。その地域ならではの特産品があれば、作品との掛け算で新しい返礼品を生み出せます。

観光と税収、2つの型を見てきました。では、あなたの町はどちらから踏み出すべきでしょうか。

参考:【山梨県身延町ふるさと納税】アニメ『ゆるキャン△ SEASON3』コラボ みのぶまんじゅうが登場 - NEWSCAST

地方自治体は観光と税収どちらから始めるべきか?

どちらの型から始めるかは、町が持っている資源によって決まります。大前提として、自分の町が作品の舞台として登場していることが出発点になります。そのうえで、来訪者を迎える周遊環境がそろう町は観光誘致型から、現地の受け皿が小さくても返礼品を作れる町はふるさと納税型から入るのが向いています。

周遊できる町か、返礼品を作れる町か

判断材料になるのは、町にどんな資源があるかです。

観光誘致型が向くのは、作品に登場するスポットが複数あり、人が回遊できる町です。さらに近隣の自治体や交通インフラと連携できれば、静岡県やNEXCOの事例のように、広域で効果を伸ばせます。来訪者を迎える宿泊・飲食の受け皿があることも条件になります。

ふるさと納税型が向くのは、劇中に登場する名物があったり、作品と組める地元の事業者がいたりする町です。観光施設が十分でなくても、返礼品なら遠方のファンを取り込めるため、現地の受け入れ環境が整っていない町でも始めやすいのが利点です。

始めやすい型向いている条件
観光誘致型周遊できる聖地が複数ある/広域・交通インフラと連携できる/宿泊・飲食の受け皿がある
ふるさと納税型劇中に登場する名物がある/組める地元事業者がいる/現地の受け皿が小さくても可

両方の条件がそろう町なら、観光で来た人を返礼品の寄附につなげる動線を、最初から設計できます。

まず聖地の場所と名物を書き出す

型を選んだら、最初にやることは大がかりな企画ではありません。自分の町の資源の棚卸しです。

まず、作品に登場した場所・名物・事業者を洗い出します。どの駅が、どの店が、どの風景が劇中に出てきたか。次に、そのなかから最初に組めそうな相手を1つ見つけます。身延町が栄昇堂という一店舗から始めたように、すべてを一度にやる必要はありません。

そのうえで、作品の権利元や、権利・ポータル展開をつなげる協力者を確認します。アニメIPを使う以上、グッズや返礼品で収益化するには権利者の許諾が欠かせません。窓口になるのは、作品の権利を束ねる製作委員会です。

自治体向けには、権利者との橋渡しを支援するアニメツーリズム協会のような公的な窓口もあります。身延町の事例が示すように、これを担えるつなぎ役の事業者もいて、自前ですべてを抱え込む必要はありません。

まとめ|小さな町ほど、最初の一歩は軽い

静岡県の約5億円という数字は、たしかに目を引きます。けれど、その数字は結果です。

ゆるキャン△と自治体のコラボが教えてくれるのは、地方創生には観光誘致とふるさと納税という2つの稼ぎ方があり、どちらも町の身近な資源から小さく始められることです。人口1万人台の身延町が、劇中に出てきた老舗一店舗との連携から税収の入口を作ったように。NEXCOの事例が示したように、企画は一人の担当者の気づきからでも動きます。

成功を分けるのは、町の規模ではありません。どの型を選び、誰と組み、最初の一歩をどう踏み出すか。そして、観光で呼んだ人をどう税収につなぐか。そこで決まります。

まずは、あなたの町の聖地資源を1つ棚卸ししてみてください。そして、観光と税収、どちらの型から始めるかを選ぶ。それが、小さな町の地方創生の起点になります。

規模は、やらない言い訳になりません。むしろ、小さな町ほど、最初の一歩は軽いのです。


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NOKID編集部

1000件以上の映像制作実績を誇る株式会社NOKIDの編集部メンバーが監修。キャラクター・アニメーション分野のノウハウやトレンドの活用手法の紹介が得意です。

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